高額療養費制度の“落とし穴”──誰のための簡素化か?
今日は、行政手続きの現場で多くの方が困っている「高額療養費の支給手続き」について取り上げます。
通知は届いた。でも、意味がわからない
「高額療養費の支給対象となります」
「手続き不要です。ただし給付口座の登録が必要です」
「登録口座は世帯主名義で」
──このような文面が届いたとき、高齢の方やそのご家族はどう感じるでしょうか?
通知文書には専門用語が多く、なぜ自分の口座ではいけないのか、なぜ世帯主名義なのか、そもそも“世帯主”が誰かすぐに思い出せない…
混乱するのは当然です。
「簡素化」という名の複雑化
役所側は「申請不要で自動化」と言いますが、現実は「口座登録が必要」「マイナポータルで申請可」「郵送でも受付」など選択肢が多すぎて、かえって混乱しています。
しかも給付口座は“世帯主名義”でなければならないというルール。
本人が療養費の対象でも、給付先は別の人というのは、理解が難しい制度設計です。
高齢者が一人暮らしで、かつ世帯主でない場合など、第三者の手助けがなければ手続きできません。
行政は「市民目線」で文書を書けているか?
役所の職員は制度に精通しているので、「この文書で十分にわかる」と思ってしまいがちです。
でも、書類を受け取る市民の多くは制度に初めて触れる人たち。
一度読んで理解できる通知文書を書く──これは、行政側の重要な責任です。
それができていない今、行政は「情報提供のあり方」を根本から見直す必要があります。
行政書士として支援できること、そして課題
こうした手続きに困る方を支援するのが、私たち行政書士の役目です。
ですが、ここにも課題があります。
高額療養費の申請は原則本人、または家族でも対応可能
行政書士が代わりに行うには、委任状や本人確認などの個人情報が必要
依頼者にとって「手続きを頼みたいけど報酬がもったいない」と感じることもある
実際、報酬を支払うと、療養費の給付額より少なくなってしまうこともあります。
どうすればいいのか?
行政側がすべきこと:
・通知文書の平易化(ふりがな・図解・事例付き)
・申請方法の統一・簡略化
・本人以外への給付も柔軟に対応できる制度設計
市民側ができること:
・自治体の相談窓口を活用する
・困ったら「誰かに頼る」ことを恐れない
・書類がわからなければ専門家に早めに相談する
行政書士ができること:
・報酬負担を抑える工夫(例えば、定型的な支援を低額パックに)
・地域の包括支援センターや社協と連携して無料相談枠の確保
・必要に応じて、福祉関係機関へ橋渡し
最後に──制度を“活かす”には、支える人が必要です
高齢者が増える中で、行政手続きの「難しさ」は、単なる不便では済まされません。
命や生活に直結する問題です。
制度は“使われて”こそ意味があります。
そのために、私たち専門家が“橋渡し”としてできることを、これからも探し続けていきたいと思います。
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