🏛️「交渉済み」の落とし穴──

日米通商交渉と“文書の呪縛”に怒りと無力感を覚える

「米が対日関税を15％上乗せ」

しかも、「日米間での解釈の違いがあった」──

このニュースを目にして、まず思ったのは「またか」という諦めに近い怒りだった。

だが、さらに問題なのは、その“解釈の違い”の根底に、すでに両国間で合意された文書が存在する可能性があるということだ。

つまり、「日本側の受け止め方」と「米国側の条文解釈」に差があったとしても、

文書にサインしてしまっていたら、それはもう“国としての意思”として認められてしまう。

📄“文書がある”という現実の重さ

国際交渉では、最終的に文書化され、署名された内容がすべての基準となる。

どんなに言い分があっても、どんなに「こういうつもりではなかった」と主張しても、

文書がある＝既に同意したと見なされる。

今回の通商交渉で仮に、

「関税に関する条文について日本側は“柔軟に解釈される前提”で考えていた」

にもかかわらず、

米国側は「厳格に条文通りに解釈する」と受け取っていたとする。

その違いに気づかず文書を取り交わしていたら、

もう、こちらは文句すら言えないのだ。

✈️大臣が慌てて渡米しても、もう遅い

今回のニュースを受け、大臣が急遽渡米したという報道もあった。

しかし、アメリカ側は「条文通りに実行したまで」と突っぱねたという。

…それはそうだろう。

すでに合意文書があり、署名も交わしているのであれば、

それを「後から都合よく変えてくれ」と頼んでも、

それは単なる“日本側の都合”に過ぎない。

まるで、契約書にサインしたあとで

「いや、うちはこういう意味じゃなかったんです」

と言い出すクライアントと同じ構図だ。

🗣️言語の壁──同じ言葉が“同じ意味”を持つとは限らない

この問題の根底には、異言語間における合意文書作成の難しさがある。

たとえば、日本語で「できる限り努力する」と書かれた文言を、英語に訳すと「best efforts」となることが多い。

しかし、英語圏の法解釈では「best efforts」は“かなりの義務的意味”を持つ。

一方で、日本語では“柔らかく曖昧なニュアンス”が残っている。

つまり、「同じ内容を訳したはずの文書」なのに、法的な強さが全然違っているという事態が起こり得るのだ。

これが国際交渉における最大のリスクであり、

慎重に慎重を重ねる必要がある。

📚行政書士の立場から見える、文書と合意の本質

行政書士の仕事は、

「文書をつくること」

「意思を明文化すること」

「合意内容を残すこと」

にある。

しかし、どんなに文書をつくっても、

当事者の理解や合意が不十分であれば、

それは後の紛争の火種になるだけだ。

だからこそ我々は、

曖昧な表現を避ける

相手の立場や前提まで考慮して文書をつくる

翻訳があるなら、法的意味まできちんと合わせる

という視点を常に持たなければならない。

🧭まとめ：「文書」とは、国の未来すら決めてしまう力を持つ

日米のような大国間の交渉ですら、

こうした“解釈のズレ”や“想定外の発動”が起きる。

ましてや、企業間・個人間のやりとりなら、もっと危うい。

だから私はあえて言いたい。

「面倒くさいから文書なんていらない」「口約束でいい」

そう言う人に限って、後で「こんなはずじゃなかった」と言い出すのだ。

この国際交渉の失敗から、私たちが学ぶべきことはひとつ──

“サインした文書”は、取り返しのつかない「現実」になる。